指先の微かな動きですら抑制してしまいそうな思いの中、今この時がずっと続けばいいと願う。
歩と別れた後もずっとこの体温に包まれたくて、何度も涙を流した。
歩に愛された記憶を消そうと、何度も唇をかみしめながら、無理矢理目を閉じて眠りに逃げた。
それは別れを決めた時に覚悟した辛さだとはいえ、予想以上に私を蝕む悲しい日々。
いっそ歩との接点を全て失くすべく、会社も辞めてしまおうかとも考えたけれど、それすらできない臆病者の自分のせいで、私の体は壊れてしまいそうだった。
「……痩せたな」
ふと聞こえた歩の声に、声にならない笑いを喉の奥で震わせた。
「あの頃より、更に貧弱になったでしょ」
「ああ。鎖骨がくっきり見えるのは気付いていたし、それを見た男どもがお前を気にかけてるのにも、な」
「男どもって……そんなの、嘘だ」
「まあ、俺が牽制しておいたからな。それに、この薄っぺらい腰で、よく立ってられるな」
さわさわと私の腰を撫でる歩の手からは、甘さよりも気遣いの方が多く感じられて、この一年で一回り小さくなった私の体を確認しているように動く。
もともと豊満とは言えない、どちらかと言えば小学生並みのあっさりとした凹凸と厚みのない体型だったけれど、歩との関係を解消して以来、更に魅惑の体からは遠ざかってしまった。
「俺のせいだな。ここまで一花が痩せてしまったのは、俺がお前を悲しませたからだ」
「ん……違う、よ。私が負けたから。夏乃さんの影に、負けたから、何もかも失って、一人ぼっちになって、それで……」
「だから、それって、俺のせいだろ?俺が夏乃のわがままに屈して、一花ではなく、恩がある会社を選んだから、お前は苦しんで、ここまで痩せたんだ」
「屈して、って。それは、違う。歩は会社のことを思って」
「ああ。俺はあの時、一花よりも会社の行く末を気にかけて、そして会社を選んだんだ」

