「え?相模主任?」

仁科さんの横に腰を下ろし、何気なく歩の体を彼女から遠ざける相模主任が、不機嫌な様子で小さく息を吐いた。

仁科さんをその背に庇う相模主任は、歩に厳しい視線を投げる。

そんな相模さんの様子を見ても驚く様子のない歩。

それどころか、相模主任がこの場に来た途端、仁科さんからすっと距離をとった。

そして、私の側に更に体を寄せる。

背中に回された歩の手が、懐かしい仕草で私を撫でる。

その温かさを感じて、お酒に酔ったわけでもないのに、ふわりと体も心も浮いたように感じた。

まるで、歩の恋人として隣にいられた時の幸せが再び訪れたような錯覚。

……だめだ。

本当にお酒に酔ってしまったのかもしれない。

隣を見上げると、私の不安を拭い去ってくれるような歩の甘い表情が私一人に向けられていた。

「歩……」

ふと呟いた私の声に、小さく笑った歩は、私の背中を撫でていた手をそのまま肩に回し、ぐっと私を抱き寄せてくれた。

そして、相模主任へ体を向けると、呆れた声で呟いた。

「俺には一花がいるってわかっているんだから、慌てることなんてないのに」

その言葉に、相模主任は眉を寄せて歩を睨む。