私がその秘密を知っているのは、私の父が弁護士をしていて、仁科夫妻が巻き込まれた交通事故の被害者側の弁護団のひとりだったからだ。
建築士として有名だった仁科夫妻が亡くなったことは、当時大きな話題となりマスコミにも取り上げられたらしい。
仁科夫妻の忘れ形見の葵さんと、葵さんの双子のお兄さんの透さんのこともテレビや雑誌で何度か目にした記憶がある。
まだ小学生だった私の記憶は曖昧だけれど、私と年齢が近い葵さんと透さんのことを、父は心から気にかけていた。
『葵ちゃんと透くんを幸せに育ててくれる人がいて良かった』
事故の後、そう言って呟いた父の言葉とほっとした表情はよく覚えている。
私を見つめながらのその言葉はまるで
『一花は俺がちゃんと守るからな』
そう言っているように聞こえて照れくさかった。
そして、事故の記憶が薄れていく中でも、父は時折『葵ちゃん、透くん』の近況を耳にしてはその幸せな成長ぶりに目を細め喜んでいた。
傍らでその様子を見ていた私は、葵さんと透さんを身近に感じながら過ごしてきた。
そして。
「あ、あの、どうぞ」
私の手元のグラスにビールを注いでくれる仁科葵さん。
透き通るような肌にはほんのり軽くパウダーが乗せられている程度で、あとはピ
ンクのグロスをひいた唇。
目元も頬も色を感じさせないあっさりとしたメイクでも綺麗だとわかる美人だ。

