ほどよいあとさき



研修中からその見た目が抜群に綺麗なことが噂になっていた仁科葵さんも、住宅設計部に配属された。

彼女はどちらかと言えば人の背中に隠れて、のんびりと動くタイプ。

何度か研修中に顔を出すことがあり、そう感じていた。

人見知りをするのか、人との関わりを求めないあっさりとした性格は儚げで、見た目の良さに更に魅力を加えている。

彼女の亡くなったご両親が、建築に携わる者ならだれもが一度は憧れる

『仁科圭、明日香夫妻』

だということは公にはされていない。

わが社の経営陣は知っているけれど、葵さんの今後の仕事に影響を与えないようにという配慮からか秘密にされている。

きっと、仁科夫妻の娘だと知られればマスコミからの取材もあるだろうし、社内でも窮屈な思いをするに違いない。

葵さんのことを第一に考えて、ということらしいけれど、仁科夫妻の実績と、わが社の経営陣たちが仁科夫妻と知り合いだったということも大きいはず。

仁科夫妻の忘れ形見を大切に見守ろうという優しさが感じられて、ちょっと感動したっけ。