「部長、椎名と神田さんの結婚は確定事項なんで、とりあえず今はお祝いの言葉だけをふたりに言ってください。で、新入社員の歓迎会を始めたほうがいいですよ。緊張しっぱなしで新入社員たちはそろそろ限界です」

静かな空気の中に響いたのは、少し離れたところに座っている相模主任の声。

苦笑しながら部長に頷いている。

『限界』と言われたのは相模主任の近くで緊張感を露わにさせて立っている新入社員たち。

今日配属されたばかりですぐにこうして歓迎会に連れてこられたんだから、そりゃ緊張もするだろう。

とはいっても、これがわが社の慣例だから乗り越えてもらわなきゃ仕方がない。

今日は、会社近くのお店はどこも、わが社のあらゆる部署の予約で埋まっているはずだ。

どの部署も、新入社員の歓迎会を早速ひらいているはずだから。

「神田さんが他の男にかっさらわれないように、今日は椎名もこの宴会に参加するから、みんなよろしく。あ、もしも神田さんを狙ってる男がいるなら諦めろ。椎名は絶対に彼女を手放さないから。な?」

面白がっているのか、どこか震えている声で話す相模主任。

その場にいた面々は、その言葉に小さく頷いて。

「おめでとうございまーす」

「お幸せに」

「椎名主任のファンの女の子たち、泣きますねー」

などと口々に好きなことを言っているけれど、私はこの展開に全くついていけない。