「部長、それ何かの間違いじゃないですか?」

「間違い?結婚の予定はないってことか?」

部長に首を傾げながら問われても、私に結婚の予定は全くない。

ひたすら歩を思い続けているだけの私に、新しい恋の予感すらないのに、どうして相模主任がそんなことを言ったんだろう。

「相模主任も、私のことはご存知のはずですし、結婚の予定なんて……」

ないです、と言葉を続けようとした時。

「部長、すみません、神田と結婚するのは僕です」

低い声が響いた。

私を包み込む、忘れられない愛しい声に振り向き、見上げると。

「あ、歩っ」

そこには、少し息を切らしている歩が立っていた。