ほどよいあとさき



偶然にも、そんなすごい人のサポートができる機会をもらえ、私はとても恵まれている。

経理部という、建築に直接携わる事は滅多にない部署での仕事を今後も続けていくにしても、設計部で過ごす時間は無駄にはならないと思う。

相模主任の下で、もっと色々な事を吸収してみたい。

自分が働く会社の中枢に入り、歯車となって経営の一端を見てみたい。

歩……椎名主任が私の仕事ぶりと好奇心の強さを勘案して、相模主任に推薦してくれたと聞かされた時には驚きしかなかった。

けれど、別れても尚、私の将来の為に動いてくれる歩に、感謝と……以前にも増して感じる愛情のやり場に戸惑う。

付き合っている時よりも、別れて一年も経った今の方が、歩への愛情は深く、強い。

そして、強く思う。

相模主任の下で働くようになって、視野が広がり、考え方に変化を感じるようになった私なら、一年前のように、簡単に歩の側からは離れるなんてことしなかったのに。

私が歩と別れる以外にも、会社の未来を潰すことのない方法があったかもしれないのに。

私は簡単に逃げてしまった。

今更そう気付いたところで、手遅れだけど。