「夏乃は、病的なまでに椎名が大好きだったんだ。
大好きだとかわいく言うには限度を超えて執着してる……いや、してた、だな。
入社してからずっと椎名を追いかけて、好きだ好きだって口癖のように言っては椎名の側にいた。で、椎名がその押しに負けて付き合いだしたけど、まあ、人の心は追いかけるだけじゃ手に入らないからな。
夏乃はそれをはっきりと思い知らされて椎名とは別れたんだけど。
いや、……まあ、気にするな。これ以上夏乃が神田さんを傷つけるようなことはしないだろうし」
「……そうでしょうか」
「ああ、大丈夫だと思う。夏乃だってあれから色々あって反省して……自分の思い通りに進まないことが世の中には多いんだってことを身に染みて感じているはずだ」
相模主任から訳のわからない言葉を聞かされた私は、それ以上言葉を続けることができない。
夏乃さんがこの一年をどう過ごしてきたのかはわからないけれど、今でもまだ歩を好きだということはよくわかる。
そうでなければ、会社の命運をちらつかせ、そして親の力を利用してまで歩を欲しがるわけがない。
「神田?大丈夫か?」
私の肩を掴んで揺らす相模主任の声に視線を上げる。
目の前には、私を気遣う瞳。
きっと、社内の女性の多くがその瞳に自分を映して欲しいと願っているはずの、瞳。
けれど、その多くの女性の中に私は入っていない。
もちろん相模主任を素敵な人だとは思うけど、私が好きな人は別にいるから、その瞳に映っている私はとても悲しげな顔をしている。

