ほどよいあとさき



ぎゅっと結んだ私の口元を見て、相模主任は何かを感じたように首を傾げる。

「夏乃、か?」

相模主任が呟いた言葉に、ぴくり、と体が揺れた。

「夏乃に、何か言われたんだな?」

探るような声は、確信を露わに見せていて、私に嘘やごまかしを許さないというような鋭さがあった。

歩同様、相模主任も夏乃さんとは同期だ。

彼女のことはよくわかっているはずで、それはすなわち夏乃さんと歩との関係や、彼女の気持ちも知っているということだ。

「椎名のことがまだ忘れられないとか、好きだとか、言われたか?」

「あ、いえ、そうじゃないんですけど……」

「あいつ、まだ懲りてないのか……?」

「は?」

チッと舌うちしながらの相模主任の声。

相模主任は、眉を寄せながら小さくため息を吐き、手元のコーヒーを一気に飲み干した。

その表情は見るからに不機嫌で、この短い時間で、相模主任の気に障るようなことを、何か言ったかなと考えをめぐらせた。

心細い思いでいる私に気づいたのか、相模主任は笑顔を作った。