相模恭汰が建築士としての才能を発揮し始めて数年。

設計デザインコンクールの大賞を受賞して以来その名前は世間に大きく知られるようになった。

わが社だけではなく、建築界の至宝だと言われるだけの実績を積んでも尚、その勢いはとどまるところ知らず。

今年からはコンクールの審査員として賞に携わることとなった彼は、女性なら誰もが欲しいと願うその笑顔を私に向けた。

どこか冷めている笑顔からは、相模主任の本音がどこにあるのかを隠しているような、そして簡単には女性を懐に入れないんだろうなと思わせる突き放した距離感も感じる。

「椎名の推薦で俺のところに来てもらったのに、申し訳ないな。あいつが神田さんはまだまだ伸びるって言って俺に預けてくれたのに。夏乃に任せてばっかりで」

「いえ、それは全然……」

「ん?どうかしたか?」

「え?あ、別に何も」

相模主任の口から夏乃さんの名前が出て、その途端私の顔色が変わったのかもしれない。

「熱でもあるのか?」

私の額に、そっと手を当てた相模主任は、「熱はないな」と呟くと、私の手からカップを取り上げた。

「体がつらいなら、今日は帰っていいぞ。終業時間までもう少しあるけど気にするな。体調を整えて、来週からまた頼む。俺も来週は本社にいるから、時間もとれるはずだ」

「あ、大丈夫です。それに、今日は新入社員が配属されるんですよね。会議室まで迎えに行くようにと部長に言われたんで、行ってきます」

「あー。そうだったな。今日が配属か……。夏乃は?今年はあいつが新人研修を受け持っていたから、引き取りもあいつじゃないのか?」

夏乃さんの名前を再び聞いて、思わず体が強張った。