そして、歩と私が別れて一年。
歩が私のもとへ帰ってくるとは思えない。
「私……何も知らないんです。椎名主任のこと、好きだったけど結局何も知らないまま、側にいただけ。
だから、一途なのかどうかも、歩が何を望んでいるのも、わかりません。
それに、夏乃さんを……会社を選んだのは歩だから」
俯いて、途切れ途切れにしか言えない私は、
「じゃ、この議事録、届けてきます」と呟いて、夏乃さんに背を向けた。
「あ、神田さんっ」
夏乃さんの声が聞こえた気がしたけど、聞こえないふりをしてその場を去った。
社長室に行く用事があって良かった。
これ以上彼女と一緒にいると、私は壊れてしまいそうだ。
せっかく、近くで仕事をすることになったんだから、好きになれたら、と思っていたけれど、そんなの無理だ。
あの日
「神田さんが歩と別れなければ、会社の株を……」
と脅すように迫る彼女に屈したことだけが歩と別れた理由ではないけれど、それでも彼女を好きになんてなれるわけがない。
彼女が無理矢理歩を繋ぎとめようとしなければ、私は歩と……。
そんな事を思っても仕方がないけれど。
いざ住宅設計部で毎日顔を合わせていれば、自分の中にあるどろどろとした醜い感情が顔を見せる。
どうして歩は私をわざわざ夏乃さんの近くに私を派遣したんだろう……。
相模主任のサポートだとはわかっていても、なんだか腑に落ちない感覚。
……やっぱり、歩にとって、私は過去のことになってしまったのだろうか。