そんな椎名主任が『押しかけ私設秘書』だという相模主任のファンクラブを認めるような発言をするってことは、その存在を受け入れているということだ。

「相模は、入社年数が浅い時に設計デザインコンクールで大賞を獲ったから、それ以降敵も多い反面自分の意思がある程度は社内に通るって実感してるんだ。善しも悪しきも、だけどな。おまけに将来の役員の席は確実だと言われれば、会社の現状を冷静に分析もする。で、女性が役職に就くタイミングの向上や業績への評価を改善していこうって思っていて。その一環として、その私設秘書さんたちを育ててるんだ」

「育ててるって、それって、逆に相模主任の負担が増えるんじゃないんですか?」

ただでさえ忙しい相模主任の業務に、女性を育てる時間が加われば、それはかなりの負担になるに違いない。

「負担が増えた分、細かい事務処理や雑務に近い仕事はやってもらってる。もともとスタッフ部門で事務系の仕事に就いている女性が多いから、そんなのは得意だろ?」

「……ですね」

「コンクールの審査員になれば、さらにあいつは忙しくなる。だから、あいつをサポートする専属の女性社員を就けたいという上の意向もあって。
で、ここからが本題だ」

それまで少し距離を作り、テレビに時折視線を向けつつ話していた椎名主任だけど、にやりと笑って私に近づいてきた。

そして、私を見下ろすように瞳を向けた。

「しばらくの間、一花も相模の押しかけ秘書をやってみないか?」

その言葉は私に反論する事を許さないとでもいうような、強い意思を含んでいて。

『俺の女にならないか?』

私にそう言ってくれたあの日と同じくらいの艶やかさもその目に溢れていた。