この愛想の悪さは、朝が苦手だという事によるものなんだろうか、と思いながら、私はぽつりと呟いた。

「相模主任の側にいたら、私はきっと緊張して意識飛ばしてしまう」

「まさか、そんなことはないだろう」

「あ、そうですね、意識を飛ばすっていうのは冗談ですけど、緊張しまくって、何もできずカチンコチンになってしまいそうです」

ははっと笑いながら言う私だけど、言っている事はまさしく本音。

確かに素敵な見た目の相模主任だけど、私にはどうしても合わないような気がする。

そんな想いの原因の一つが、一年前に椎名主任の家で言われた『夏乃』さんのことだと、わかっているけれど。

「相模は、ああ見えて、優しい、いいやつだぞ。仕事の責任を一人で背負ってる部分もあるし、わが社の顔だなんて言われてプレッシャーがないわけないだろうし。だから、あまり厳しい目でみないでやってくれ」

「はい、まあ、わかってるんですけど」

「でも、一花が相模のファンで、ファンクラブに入っていたとしても、複雑だな」

さっきから、時折聞こえるファンクラブという言葉に、私は少し反応した。

「ファンクラブって、一体なんですか?それに、入会資格ってなんですか?」

相模主任の人気は十分理解しているけれど、ファンクラブという具体的なものがあるというのは聞いたことがない。

「んー。社内の女の子たちが勝手に、それも密かに作ってるファンの集まりなんだけど、芸能人のファンクラブとはイメージが違うんだ」

「はい……?」

言葉を選びながら、ゆっくりと話してくれる椎名主任。

そんな様子を間近に見るのも久しぶりで、切ないやら苦しいやら……嬉しいやら。