ほどよいあとさき



「椎名主任、いい加減、笑うのやめてくださいよ」

「了解了解。それよりも、それほど相模を知らなかったら、一花は相模ファンクラブに入会なんてできないな」

笑い声をおさめて、何やら面白そうに呟く椎名主任。

「社内どころか、うちの会社の株主たちの中にも相模のファンクラブは結成されていて、きっとこの番組だって、食い入るように見つめているはずだ。なのに、一花にとって相模はそれほどのものでもないんだな」

椎名主任は、テレビ画面に視線を向けて、小さく頷いた。

くすくす笑う声と、どこか穏やかな表情は、一年前まで近くで見ていたものとちっとも変わらなくて、どきりとした。

「最近、相模がうちの会社にいるってだけで、うちの株を買って、株主総会にやってきて、で、相模の顔を眺めて帰るっていう個人株主が増えてるんだ」

「眺めてって……それはすごいですね、。相模主任って、確かに見た目が良すぎて遠目からしか見られないほどですけど。でも、あ、今の顔。
時々何を考えてるのかわからない冷たそうな顔を見せられると、私は怖くて何もできなくなりそうだな……」

テレビ画面の相模主任は、対談番組のゲストとして登場しているようだけれど、対談相手のテレビ局のアナウンサーとの会話はあまり和やかに弾んでいるとは言えないようで、アナウンサーも時折手元の資料を見ながらわたわたと話している。

普段から、決して愛想がいいわけではない相模主任は、そんなアナウンサーの気持ちを楽にしようとか、番組の雰囲気をよくしようだとかは全く考えていないようで、冷静な表情を崩さないまま、淡々と質問に答えるだけだ。