ほどよいあとさき



……この仕草。懐かしい。

何か思うことがあるとき、決まってこうやって天を仰ぐような仕草を見せていたっけ。

仕事中に冷静さを欠かすことがない歩がふと見せるその様子は、プライベートを分け合っている者しか知ることができないもの。

以前の私も、仕事を離れて歩と一緒にいる時、何度も見ては優越感に浸っていた。

「で、相模だけど。今年から設計デザインコンクールの審査員を務める事になったんだ。
至上最年少の審査員だって、設計部あたりは大騒ぎだ」

「へえ、そうなんですか。審査員って、やっぱりすごいことなんですよね」

「は?」

「え?だから、審査員をするなんて、すごいんだなあって……」

私は椎名主任の言葉に、そう言って答えたけれど、どこか驚いているような表情の椎名主任を見ているうちに、言葉が続かなくて、黙り込んだ。

私、何かおかしなことを言ったのかな。

訳が分からないまま、ただ椎名主任の答えを待ったけれど、返ってきたのは、意外にも部屋中に響く笑い声だった。

「え?あゆ……椎名主任、どうしたんですか?」

その笑い声に焦った私は、上擦った声で呟いた。

突然の大きな笑い声に、思わず数歩、後ずさってしまう。

「あ、悪い悪い。一花が、そうだってわかってたはずなのに、久しぶりに実感してほっとしただけだ」

「私がそうだって、どういう事ですか?」

「いやいや、いいんだ。相変わらずマイペースだなって安心してるってことだ」

腰を折って笑う椎名主任の背中はひどく震えていて、どれだけ私の言葉に受けたのかがそこからわかるけれど、一体何が?

何が椎名主任をここまで笑わせているのか、よくわからない。