ほどよいあとさき



こうして振り返れば、夏乃さんの歩への愛情がきっかけでかき乱された会社内部の騒ぎは簡単に解決できたように思えるけれど、実際は、ほぼ一年をかけての大仕事だった。

夏乃さんのお父さんにしても、自分の親友から託された株式を他人に譲るということにためらいもあっただろうし、娘が可愛いと思う気持ちだって確かにあったはずだ。

それでも、株式を手放す決断をしてくれたのは、歩に夏乃さんを愛する気持ちがまるでなかったということと、親友たちへの友情。

そして、娘である夏乃さんに、本当の意味で幸せになって欲しいと願う親心が大きかったんだと思う。

そして、この三月の株主名簿の確定日を迎えて、片桐は現状のまま経営を継続できる見通しが立った。

そんな相模主任に教えられたあれこれは、私には予想もしていなかったことで、聞いた瞬間は言葉を失って何も答えることができなかった。

それは私が相模主任の下で勉強させてもらったあと、経理部へ戻ってすぐのことだった。

今思えば、三月末で株主名簿が確定して、事の裏側を私に教えてもいいと判断したんだろうけれど、突然の種明かしは私を動揺させるには十分なものだった。

「俺が、一花を相模のもとへ預けた意味、わかるか?」

相模主任に聞かされた思いがけない言葉を反芻していると、不意に歩の声が聞こえた。