ほどよいあとさき



『だけど、夏乃の父親は、娘のわがままには一切耳を貸さず、夏乃の思惑が成就することはなかったけどな』

そう。

歩が大好きで、どうしても彼を自分のものにしたかった夏乃さんの常識はずれな行動は、彼女の頼みの綱である父親によって阻まれた。

『大切な親友たちが立ち上げた会社を、建築のいろはもわかっていない投資家に好きにさせるわけないだろ』

その怒りはかなりのもので、自分の持ち株の多くを片桐の経営を安定させるであろう株主たちに譲った。

特に、相模主任の才能に惚れている株主さんへ、かなりの株式が売却されたことが功を奏して、会社の経営が以前と大きく変わることはなかった。

加えて、相模主任がその名前と見た目、実力を世間にアピールするたびに彼に惹かれる人たちが増え、片桐に肩入れする個人投資家の数が増えている。

おかげで、相模主任が片桐から離れるなんて当分できない状況にもなりつつある。

独立なんて、絶対にできないと、周囲は感じているし、きっと、相模主任もそのつもりだと思う。

片桐の内部では、相模主任が会社にとどまることによる恩恵が相当なものだと実感したその出来事をきっかけに、彼を取締役に就任させようとする動きが加速し始めている。

会社の代表権を持つ、専務以上への就任も時間の問題かもしれない。