ほどよいあとさき



「歩のことを諦められない自分がつらくてどうしようもなかったけど、歩が私を受け入れてくれなくても、好きな気持ちを捨てずに自然に生きていれば、いつか私も歩も、それぞれ幸せになれるかなあって達観しちゃったの」

ふふっと笑い、当時の切ない想いを振り返りながら、泣きそうになる自分をどうにか振り払う。

そして気持ちを落ち着かせて話を続けようとしたけれど、歩の手が私の背中を優しく撫でてくれた。

「そうか、ありがとう」

歩の嬉しそうな声が聞こえた。

視線を向けると、穏やかに笑って、私を愛しげに見つめる瞳。

もともと私には優しい眼差しを向けてくれることが多くてその度に私は気持ち全てを持っていかれていたけれど、今だってそうだ。

歩に対して、言いがかりに近い愚痴を興奮気味に話す私を冷静に受け止めて、そして愛情に変えてくれる。

背中を這う歩の指先から、その愛情が注がれていくようで、一気に興奮が鎮まっていく。

「別れた後もずっと、一花からそんな風に思われていたなんて嬉しいよ。ありがとう」

「うわっ。その落ち着いた感謝の言葉っていったいどこからの自信?私、ずっと歩のことが好きで忘れられなくて悩んでたのに。なんだか、むかつく」

「くくっ。俺は忘れようとしたこともなかった。一花と別れた時こそ、二度とこの手に取り戻すことはできないと諦めかけたけど、そんなこと、自分にはとうてい耐えられないと気付いて、取り戻すための策略を巡らせてきた」

意味ありげに私を見つめる歩の声に、私はじろりと視線を向ける。

歩には、別れた時の私の悲しい気持ちがわかっていないように思えて、拗ねたような声で呟き返した。