ama-oto

　とりあえずビールを頼み、三分の一を一気に飲み干した。ついてない日の憂鬱が、炭酸の泡で少し溶けた気がした。ため息をついて、ぼんやりとジョッキを眺めているところに、福間くんが話し始めた。

　「俺の傘さ、元カノからもらったやつなんだよ。」
　「ふーん。」

　枝豆をつまみながら、何かを思案しながら話す福間くんに視線を向けた。独り言を話すような、いつもとは違う、影が色濃い顔をしている。

　「本当に、心の底から好きだった。」

　その言葉に少しドキッとした。そんな言葉を使うような人だとは思わなかった。勝手なイメージだけれども、『心の底から』誰かを好きになる、そんなふうには見えなかった。

　「今日、声をかけてきたゆかりは、元カノの妹。」

　うなづきながら、焼き鳥をほおばった。この人はなぜ、私にこんな話をするのだろうか。今、あまり思い出したくない人の話を。

　「あんまり聞きたくないよな、こんな話。」
　「うーん……そうだね。」

　じっとジョッキを見つめて、ぼんやりしていると福間くんが思いもよらない一言を投げかけた。

　「豊崎さんってさ、おもしろいよね。」

　飲もうと口元に持ってきたジョッキを思わずおろして、福間くんを見た。