「豊崎さんも、見たんだろう。」

 それ以上、言わないで。

 「だから、泣いたんだろう。」

 うつむくことしかできなかった。まぶたをギュッとつぶって、涙が出てくるのをこらえることしかできなかった。唇をぐっと結んで、耐えた。

 「豊崎さんがあの男と一緒にいるのを見たとき、目を疑った。」
 「もう……それ以上言わないで。」

 そう言うのが精いっぱいだった。

 下を向いてぐっと涙をこらえていた私の頭に、ふわっと大きな手のひらが乗っかってきた。何をされるのかと思ってかまえていたら、髪の毛をぐしゃぐしゃにしながら頭をなでられた。

顔をあげると、さっきとは違う、視線を緩めた福間くんがそこにいた。予想していなかった、ふわっと優しい笑顔を見て、なんだか少しほっとしてきた。

 「そのまま帰るって言いたいところだけど。」
 「おごり?」
 「しょうがねーな。」

 清人より大きくて、ごつごつしたてのひらに、数時間頼ることにした。このまま一人の部屋に戻っても、あの花柄の傘を思い出し、あの子の待っていた人物を悶々と考え、何かできたであろう時間を無駄にするだろうから。

 私と福間くんは、来た道を戻り、駅の近くの居酒屋に入った。