「まさかイノクさんがそんなつもりだったとは…ふふふ、いいんですよ男の人ってそうですよね…最終的にはそこに行き着くんでっていてよね

…ふふっ、ふふふふ…」

どす黒いオーラを放ちながら特に意味のない笑いを漏らす姿は悪霊のようだがそこ原因はイノクだった。

「そんなつもりでやったわけではありませんよ!?まあ、付き合って2年も経ってるのにキスすらできないことはちょっと気になっていやそんなことないですほんのちょっと、ちょびっとだけ気になってますがっ」

「おまえ…やっぱそのつもりで…」

「あんたは黙ってろ!!だいたい婚姻のニュースが流れて3ヵ月後に懐妊の知らせが!!」

「俺の場合は政略結婚に近いからな?世継ぎは早めに出せってうるさいし…。だいたい俺がアシュラをルイに盗られて心に傷を負っている時に母さんがっ!」

*



『マルク、この子はどお?』

『…』

『この子は?』

『アシュラ…』

『ん?』

『アシュラがいい』

『我侭言っちゃだめよ、アシュラさんはもうお相手がいるんでしょ?』

『うん…』

『ところでマルク、この子は?』

『うん…』

『気に入ってくれたのね!じゃあ早速お手紙を送らなくっちゃね!』

嬉々とした母の表情が眩しかった。

*

「そっ、それ無効じゃないんですか…」

「まあもう子供もいるし、ジオのことも好きだからいいよ」

乾いた笑いが痛々しい。

「その前にマオちゃんどうにかした方が…」

「そうですねってうわあ、鬼のような形相をしている…」

「あれは化け物並だぞ…謝ってこい、大丈夫だ、俺にも治癒魔法ぐらい使える。使えるようになったから、つい最近」

「お、おめでとうございます。覚えたての魔法ほど怖いものはないんですが…」

「大丈夫、心肺蘇生もできる」

「い、行ってきます」

殺気を放ち恐ろしい顔で睨んでいるマオに近づくと頭を下げた。

「そんなつもりはちょっとだけあったけどセーフだと思ってやりました出来心ですもうしません!!」

「信用できません!!」

「減るもんじゃないですしいいでしょ!?」

「イノクさんの馬鹿ぁ!!」

ばきん!!

夏の昼下がり、見習い騎士たちが持久走をする広場の片隅で、本気の力で殴られた。平手打ちなんて可愛いもんじゃない 。グーで殴られた。

女性と言っても騎士団で鍛えられ、団長になるほどの人物だ。



イノクはひとつ学んだ。





自分の欲求を最優先にすると歯だって折れる、と。