「いつもなら一番に起きて俺のこと起こしに来るのに。何か嫌なことあったか?」
「嫌なことって…あなた私をなんだと思ってるんですか、もう子供じゃないです」
「えー…でもお前よく『学校行くの嫌』っていって寝てたじゃん、お前が寝坊するってだいたいその理由じゃん、結局はちゃんと行くんだけどね」
「いいこでしょう?」
「ソーダネー」
マルクは感情のこもっていない声で返事をすると寝癖のついたシンスの頭を撫で、小さくため息をつく。
「寝癖も直していないなんて、本当にどうしたんだ?」
「なんでもないです」
「なんでもなくないだろう」
シンスの顔に手を伸ばし、目の淵に溜まった涙を拭う。そのまま頬っぺをぷに、と摘むとまた一つ、ため息をついた。
「1日休め、それが嫌なら半日でもいい。疲れてんだなー、かわいそうに」
両手を伸ばしてハグをしようとするとシンスはとっさに体を後ろに引く。
「や、やめてください」
「なんだよー、昔は可愛かったのに、ハグしようとすると超笑顔になってニッコニコ笑いながら両手を伸ばしてくれたのに…」
「それは昔の私です今の私は違います」
きっぱりと言い放つと背中を向ける。
「そうだな…お前も成長したなあ…」
「あなたも老けましたけどね」
「うるさいよー…とにかく最低でも半日休めよ?」
「はい」
素直に返事をすると、部屋を出ていくマルクを見送り、少し首元のボタンをゆるめ、ベッドに倒れ込んだ。
横になった瞬間に再び眠気が襲ってくる。
(疲れている …か)
甘ったれたことを言っている暇はない、疲れなど治癒魔法でどうにでもなる、治癒魔法がなければ花人族のつかうメディキナで直せばいいのだ。
(でも、今は少し体を休めたい。このままではいざというと、に、うごけな、い)
突然襲ってきた猛烈な睡魔に負け、闇の中、不安の渦巻くまどろみの中に沈んでいった。