ガラスが割る音、何かを引き裂く音、人々の悲鳴。
帝国の兵士が紛れ込んでいた舞踏会は混乱の渦に巻かれていた。
第二騎士団はドレスを脱ぎ捨てすぐに戦うことができた、というのもドレスはすぐに破ける素材でできていた。会場のあちこちに武器が隠してあった。来客用のカップの中には神経毒。国王が座る玉座には魔法壁、オーケストラの演奏者はみな音魔法の使い手だった。
徐々に会場の中央へと帝国兵が追い詰められる。
神経毒のせいで体が思うように動けない帝国兵はやっと気がついた。この舞踏会は罠だと。
来客の中には勿論、この国の人間もいた。だが、それは国が金で雇った傭兵か、武道の心得がある者、それか騎士団の関係者だ。
全員が捕らえられ、地下のジメジメした暗い牢に閉じ込められる。
暴言を吐く者、舌を噛み切って死のうとする者を、魔法で押さえつけ、舞踏会に紛れ込んだ訳を聞かれる。
指が一本一本無くなっていく。人間の姿では無くなっていく。
その様子をシンスは、昔に戻ったような気分で見ていた。
*
すすり泣く声が耳の中に木霊する。おかあさんたすけて、おかあさん、いたいよ、いたいよ、おかあさん。
母を求めて泣く声が、あちこちから、まっ暗闇の中から聞こえてくる。その声の一つに、シンスのものもあった。
シンスの声をシンスが聞いている。大人の自分が、子供の頃の自分を見ている。
不思議だ。
不意に暗闇の中に一筋の光が差し込んだ。そこから大男が1人、闇の中に入ってきて、シンスの首に繋がれている鎖を引っ張って光の中へ放り出した。
後を追うと、人々が熱狂した様子で大声をあげていた。
ああ、思い出した。競りだ 。怖かったなあ 、音もでっかいし臭いし。自分のすぐ隣にはぐちゃぐちゃに引き裂かれた、自分と同じぐらいの子供が居るんだから。
すぐに自分のついた値段は跳ね上がった。金貨100枚、1000枚…結局一千万枚だったかな?一体どこの金持ちがそんな大金を持っていたのだろうか。
その後すぐにシンスの左腰には奴隷の焼印が施された。
一生消えない傷。魔法で治せばこんなもの、すぐに元通りなのだが。この焼印にはある強力な呪いがかかっていた。魔法で治そうとするとその奴隷は拷問にかけられたような苦しみに襲われる。この症状を治すには 、この魔法をかけた本人が直さなくてはいけない。
シンスは、マルクに保護されてからイノクに魔法で治してもらおうとした。だが、イノクはその呪いに気づき、シンスが生きながらにして死の苦しみを味わうことはなかったが。特殊な魔法結界。これを解くにはかけた時よりももっと強い魔法でなくてはならないが、まだ、そんな魔力を有するものは誰もいない。
だからシンスはこの印を背負って生きていかなくてはならない。人前で裸になることはまずないが、風呂に入れない。人が居なくなったのを確認して、コソコソと入らなければならないのは辛いものだ。
ぼんやりとしていたシンスの耳に鋭い悲鳴が飛び込んできた。
子供のシンスが焼印を押されたのだ。暴れる手足を押さえつけられ体を血と汗と、いろいろなもので汚れた床に押し付けられて。
シンスは目をそらした。まるで子供の頃のシンスが助けを求めるようにこちらを見ていたから。
たすけて、いたいよ、たすけてたすけて。
「大丈夫、きっと助けに来てくれるから。少し待っていて。そうすれば、きっとあの人が、迎に来てくれるから」
一言一言、子供の自分に言い聞かせるように。
帝国の兵士が紛れ込んでいた舞踏会は混乱の渦に巻かれていた。
第二騎士団はドレスを脱ぎ捨てすぐに戦うことができた、というのもドレスはすぐに破ける素材でできていた。会場のあちこちに武器が隠してあった。来客用のカップの中には神経毒。国王が座る玉座には魔法壁、オーケストラの演奏者はみな音魔法の使い手だった。
徐々に会場の中央へと帝国兵が追い詰められる。
神経毒のせいで体が思うように動けない帝国兵はやっと気がついた。この舞踏会は罠だと。
来客の中には勿論、この国の人間もいた。だが、それは国が金で雇った傭兵か、武道の心得がある者、それか騎士団の関係者だ。
全員が捕らえられ、地下のジメジメした暗い牢に閉じ込められる。
暴言を吐く者、舌を噛み切って死のうとする者を、魔法で押さえつけ、舞踏会に紛れ込んだ訳を聞かれる。
指が一本一本無くなっていく。人間の姿では無くなっていく。
その様子をシンスは、昔に戻ったような気分で見ていた。
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すすり泣く声が耳の中に木霊する。おかあさんたすけて、おかあさん、いたいよ、いたいよ、おかあさん。
母を求めて泣く声が、あちこちから、まっ暗闇の中から聞こえてくる。その声の一つに、シンスのものもあった。
シンスの声をシンスが聞いている。大人の自分が、子供の頃の自分を見ている。
不思議だ。
不意に暗闇の中に一筋の光が差し込んだ。そこから大男が1人、闇の中に入ってきて、シンスの首に繋がれている鎖を引っ張って光の中へ放り出した。
後を追うと、人々が熱狂した様子で大声をあげていた。
ああ、思い出した。競りだ 。怖かったなあ 、音もでっかいし臭いし。自分のすぐ隣にはぐちゃぐちゃに引き裂かれた、自分と同じぐらいの子供が居るんだから。
すぐに自分のついた値段は跳ね上がった。金貨100枚、1000枚…結局一千万枚だったかな?一体どこの金持ちがそんな大金を持っていたのだろうか。
その後すぐにシンスの左腰には奴隷の焼印が施された。
一生消えない傷。魔法で治せばこんなもの、すぐに元通りなのだが。この焼印にはある強力な呪いがかかっていた。魔法で治そうとするとその奴隷は拷問にかけられたような苦しみに襲われる。この症状を治すには 、この魔法をかけた本人が直さなくてはいけない。
シンスは、マルクに保護されてからイノクに魔法で治してもらおうとした。だが、イノクはその呪いに気づき、シンスが生きながらにして死の苦しみを味わうことはなかったが。特殊な魔法結界。これを解くにはかけた時よりももっと強い魔法でなくてはならないが、まだ、そんな魔力を有するものは誰もいない。
だからシンスはこの印を背負って生きていかなくてはならない。人前で裸になることはまずないが、風呂に入れない。人が居なくなったのを確認して、コソコソと入らなければならないのは辛いものだ。
ぼんやりとしていたシンスの耳に鋭い悲鳴が飛び込んできた。
子供のシンスが焼印を押されたのだ。暴れる手足を押さえつけられ体を血と汗と、いろいろなもので汚れた床に押し付けられて。
シンスは目をそらした。まるで子供の頃のシンスが助けを求めるようにこちらを見ていたから。
たすけて、いたいよ、たすけてたすけて。
「大丈夫、きっと助けに来てくれるから。少し待っていて。そうすれば、きっとあの人が、迎に来てくれるから」
一言一言、子供の自分に言い聞かせるように。


