なぜと聞かれれば、それは私も答えることができない。赤く染まった手が、指が何を意味しているのかもわからない。

シンスは布切れで羅針盤を拭き、ワイヤーを拭き、最後に自分の手を拭いて、汚れた布をその場に捨てた。
羅針盤というのはシンスの一家に伝わる武器だった。幼い頃、村が奴隷狩りの被害にあったときその武器は奴隷商人が持ち去った。そして、奴隷になってから、数年後この国の騎士団長であるマルクが世界樹の命を受け、シンスを奴隷身分から開放した。だが、それは上辺だけで、正確には世界樹の元で奴隷、いや、一生死ぬまで外にも出られず、保護されることになっていた、だがマルクはそれに逆らった。世界樹からシンスを買い取ったのだ。過去に起こったあの事件を引手に出して。

今でもその事件の内容を知ることはできる 、記憶樹の記録を見ればすねての真実がわかるのだ。
そこに載った情報はずっと消すことはできない。

その事件の名前は、『sister全滅事件』

世界樹は、奴隷となったsister自らの元に集め、保護した、だが、その場所が蛮族にばれてしまい、sisterたちは蛮族に食われてしまった。そこに集めたsisterは、さいごのsisterだといわれていた一族だった。こうしてsisterは絶滅したかと思われたが、まだ二人残っていることが判明した。一人は居場所が確認されているが、もう一人の行方はわかっていない。その一人は一度世界樹に収容されたが、騎士の団長によって開放された。

その通り。記録は消えることはない。

今日は帰って寝よう。



もっとも、蒸し暑い部屋で安眠を得ることはできないが。