(さて……)





どうしたものかと総司は思案する。





正直、ここは助けるべきなのだろうが、正義の味方みたいなのは嫌いだ。






それに、あの女の人もどうしてこんな危ない時間にうろうろしていたんだろうか。






(少し……面倒だな)





そんなことを思いながらも、刀の柄に手を掛けたとき。







「やめなさい!みっともない!」






と甲高い声が闇の中で木霊する。





全員の視線が注がれるなか、声のした方向から現れたのは、豪華な着物を身にまとい、煌びやかな簪を挿した芸者と思しき人物だった。






結い上げた髪は絹のように艶があり、目鼻立ちの整った顔に、真っ白な肌。







四人の武士は現れた女に釘付けになっていた。





いや、男だけじゃない。追われていた女までもがぽかんと口を開けて、芸者に見惚れている。






だが、総司はその芸者に見覚えがあった。




女の顔に心当たりがあったのだ。





思い出すのに、さほど時間はかからなかった。




(ゆ………譲!!)





どうしてここにと慌てる総司の傍らで、事態はすすんでいく。





「一人歩きの女性を襲おうなんて……武士の風上にもおけないわね」






「へっ!女風情が!お前を相手にしてもいいんだぜ!?」





その声を合図に、男たちは抜刀する。







「譲!」





しかし、男たちの刀が振り下ろされた先に、譲の姿はなかった。








そして、男たちが次々にばたばたと倒れる。






「みね打ちよ。にしても、随分と切れ味の悪そうな刀ね」





譲は刀身をなめるように見つめながらぽいっと刀を捨てる。





(………っ!!!)





あの一瞬のうちに、譲は四人の武士の中の一人の刀を奪い取って、みね打ちによって返り討ちにしたのだ。





何という早業なのだろう。いや、さすが譲といったところだろうか。着物の重さも、動きにくさもあっただろうに、よくあれだけ早く動けたものだ。







感心していると、譲は追われていた女性に歩みよる。






「最近は物騒なんだから、もっと気をつけてね」





そうすると女は尊敬の眼差しを湛えながら、何度も律儀にぺこぺこと頭を下げてその場を去っていった。





女の気配が完全に消えたころを見計らって、総司は物陰から姿を出す。







「さすがだね、譲」






譲の目が大きく開かれた。