幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜







いつもよりもやや緊張感に満ちた朝食後、譲はある支度をするために、自室へ向かう途中、せっせと竿に洗濯物を干している近藤の妻、つねを見かけた。




手伝おうと庭に出ると、足音に気がついたのか、つねがこちらに振り返った。




「あら譲、こんなところでどうしたの」




「ええ、そろそろ支度をしようと思ったんですけど、つねさんを手伝おうと思って」



そう言って軽く微笑みながら、譲はしわを伸ばすと次々と洗濯物を竿にかけていく。




黙々と洗濯物を干していく譲を何を言うのでもなく見ていたつねだったが、ふとあることを口にする。





「譲、いつまでそんな格好をするつもりなんだい」




「だって、動きやすいんだもん」





「そういうことを聞いてるんじゃないよ」





冗談めかして話の矛先を変えようとするが、あっさりつねに見破られる。






しばらくは沈黙の中、苦笑を引きずり、何とか話を変えようとしたが、つねの鋭い眼光に諦めがつき、譲は肩を落とした。




「だって………」





つねさんの言いたいことは痛いほど分かる。譲も十分に理解していた。




つねさんと近藤さんが婚約した日から、つねさんはまるで我が子のように自分の面倒を見てくれた。




自分にあらゆる家事を教えてくれたのも、細かい礼儀作法を教えてくれたのも、勉強を教えてくれたのもつねさんだった。繕い物がなかなかできなくて、針を何度も指に刺してしまったとき、つねさんが優しく手当てしてくれたことを今でもはっきりと覚えている。




譲は自分は身にまとっている男が着る袴を、自分のものではない物を見るように見下ろした。





男装するきっかけになった日のことを思い出すだけでも、たとえようもない悔しさがこみ上げてくる。






ぷるぷると拳を震わせる譲を見て、つねが宥める。




「確かに、あのことは忘れがたいとは思うけどね、もう、過去のことだよ」





「そう………だけど」





「それに私は、未だに譲が吉原で芸者の格好をして働いていることに反対してるんだからね」




「それは……でもしかたなくだし……」