幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜






部屋に着くと、すでに全員が揃っていた。






上座には近藤さんに、土方さん、山南さん。





この山南さん――山南敬介は学者肌で、眼鏡がよく似合う。







さらには平助と同門の、北辰一刀流の免許皆伝の持ち主だった。






そして、その三人を先頭にするようにずらりと並ばれた膳に座っているのが、左之さんに、新八さん、平助に源さんだった。







井上源三郎――通称源さんは、自分や総司が試衛館に来る前からの門下生だった。






つまりは、自分たちの兄弟子にあたる。年齢は近藤さんとあまり変わらなくて、真面目でおおらかで、人情家な人だった。







何度土方さんに、源さんを見習ってもらいたいと思ったことか。






譲と総司はいつもの自分の席に正座する。






「遅くなってすみません」





と一声掛け、近藤にぺこりと頭を下げる。







「いやいや、ごくろうさんだったな。譲の作る飯は格別うまいからな!」






譲を褒める言葉に永倉もこくこくと感嘆するように頷く。







「そうだよな…、うまいよな……。俺がお嫁にもらいたいくらいだぜ!」







冗談か本気か分からない言い方に、近藤が思わず叫ぶ。





「いかん!譲はまだ十七だぞ!」






「立派に年頃じゃねえか」







と横槍を入れるのは土方。





近藤が冷や汗をかく。





「い……いやしかし、まだ十七だ」





「もう十七だろ?」






「トシさん、その辺にしてあげてくれ」







「そうですよ、土方くん」






と土方を止めるのは源さんと山南。







言われた土方も少しばかり言い過ぎたかもしれないと、ぽりぽりと頬を掻く。






「ていうか、私を差し置いて、変な話しないでくれませんか!?それに、私お嫁になんて行きませんから!」






「そ……そうか……」









近藤がほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、今度は原田が口を挟む。








「それはそれでもったいねえだろ。なんなら俺が……」






と言い出す原田に口出しするのは平助。






「だーーー!何言ってんだよ!」





「そ……そうよ!もう、みんな朝から何いってんのよ!」







「元はといえば新八さんの言動が原因だけどね」






総司が微笑を湛えたままちらっと永倉を見やる。




「俺はな…事実ってやつを言っただけだ。誰だって、こんな可愛くて、器量よしで、剣術も強くて、料理もうまい娘を、嫁にもらいたいと思うだろ?譲も、ぼーっとしてると、誰かに狙われるぞ」





自信満々にかつ堂々と恥ずかしいことをさらりと言ってのける永倉の発言によって、耐え難い羞恥が譲を襲う。






「何言ってるの!?だから私は、誰の嫁にもならないってばーーーー!」




雄叫びを上げるように声を振り絞って叫び上げると、スパンッと、襖が開いたかと思うと、怒号がとんだ。




「全く、あんたたちは何をしてるの!早く朝餉を済ませなさい!」







近藤の妻、つねの言葉に、全員が恐縮し、全員が最後まで正座を崩さず、礼儀正しく手を合わせて掛け声をかけた。





誰一人、わいわい騒ぐことなく、この日の朝餉は静かにすんだ。