幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜




「早くしねえと、飯を食われちまうぜ?」




そう言われて真っ先に思い浮かんだのは、永倉の顔だった。




平助のさり気ない一言で永倉の顔が浮かんできたことが、なぜかおかしくなってきて、譲はふっと笑った。



「ふふ、そうね。新八さん、いつでもお腹をすかせてるから」




「そうだよ。一昨日だって、せっかく譲が作ってくれた目刺を、俺の分なのに全部食っちまうし。俺あのとき、味噌汁とご飯だけでやり過ごしたからな!?」





そういえばと、一昨日の平助のわびしい膳を思い出した譲は、ますます笑いがとまらなくなって、お腹を抱えた。





おかずがなくなった平助は空腹を満たすために何度もご飯をおかわりした。そして、おかわりの間のたびに、箸をくわえて恨めしそうに永倉を見ていた。






その姿が捨てられた仔犬のように憐れだったため、譲は総司、左之さんと一緒にずっと笑いが止まらない腹を抱えていた。





当時のことがよみがえって、爆笑する譲に、平助が拗ねた子供みたいに頬を膨らませる。



「わ……笑うなよ!」




叫ぶ平助に、譲は笑みを絶やさない。



「だって……あの時…、新八さんに目刺を全部とられたときの鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔……ふふ、もう最高!!」



悔しそうに平助は顔をゆがめる。



「くっそう……今日はお前の目刺食ってやるからな!」



「ふーんだ。そんなことしたら、近藤さんに泣きついてやるんだから」




「なっ…!?き……汚ねえぞ!そういう時だけ、養女としての権力を振りかざしやがって!お前が泣きついたら、近藤さんマジで怒るから!」




そんなことを言い合いながら、厨を出てわいわいしていると、平助と言い合いしていたために後ろ向きで歩いていた譲は、突然、誰かにぶつかって前に倒れそうになった。






「おっと…」




ぐいっと腕を掴まれて、なんとか倒れることは免れる。




すでに聞き知っている声に、譲は一瞬で、自分を助けてくれた人物が誰か判断した。