幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜





試衛館の門まで来て早数分。




譲と総司は、近藤さんの心友が一体どのような人なのだろうかと、質問攻めをしていた。




近藤さんはやけに上機嫌だった。





「心友の名はトシ……いや、土方歳三というのだが、またこいつが、強者(つわもの)でね」





「そんなに剣の腕が立つんですか?」



うずうずしながら譲が耐え切れなくなって口を挟む。



だが近藤さんはその頭をぽんぽんと優しく叩いた。




「ああ、行商をしながら、各地の道場を巡っているらしい」



「ということは……無流なんですか?」




と、総司が尋ねると、近藤さんは難しい顔をした。



「まあな。だが、剣の腕は俺が保証する。それにな、あいつは……」



すっと、近藤さんの目が何かを懐かしむ。



「俺と同じ農民の出なんだ」




譲と総司は同じ間合いで「えっ?」と声を上げた。




総司は正式な武士の家系で、譲も普通の家の家系ではない。




二人がぽかんと口を開けていると、近藤さんの手が肩にかかった。





「俺は、幼い頃から【三国志演義】を読んできて、ずっと関羽や関興のような武将になりたいと思っていたんだ。実はな……トシも同じ夢を抱いているんだ」



照れくさげに語る近藤さんの表情は、どこか誇らしげだった。





「お前たちにも、立派な人間になってもらわねばな!」



「はい!」




と二人が息ぴったりで元気に返事を返すと、急に草履の音が聞こえた。




音の先を目で追うと、そこには一つの人影があった。




行商用の籠を背負い、旅装束でやってくる一人の男。





「よお、近藤さん」




近藤さんを見ると、男はそう挨拶した。





整った顔立ちで、髪を高く結い上げている男―――、土方歳三であった。