いつも通りに曲が弾き終わると、やはり総司は何も言わずに帰っていこうとしていた。
譲は慌てて、総司が潜んでいる物陰まで走る。
「ねえ、待ってよ」
足早に去ろうとする総司の腕を掴む。
総司の肩がびくっと跳ね上がる。
突然の行動に少し驚いたのだろう。
だが、それもつかの間。
総司の瞳が冷たくなった。
「なんだよ」
自分に関わるなと訴える目。
相手を突き放すような口調に、譲もしばらく言葉を失った。
そして何か話そうと息を吸って、掴んでいた総司の腕に違和感を覚える。
すっと視線を落とすと、そこには痣だらけの腕があった。
どす黒くなっている痣や、まだ傷口が癒えていない部分もあった。
譲は我が目を疑った。
まさか、ここまで兄弟子たちの折檻が酷いとは思わなかった。
本来話そうと思っていたことも忘れ、気付けば譲は総司の手を井戸まで引いていた。