幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜


近藤さんにまた変な心配してをかけまいと譲は屯所に戻ることにした。


屯所に戻ると浪士組が借りている八木邸の八木さんのところの子どもでもある勇坊が壬生寺の境内で遊んでいた。


勇坊は譲を見つけるや否や慌てた様子で駆け寄ってきた。少し憂鬱そうな譲の顔を心配するかのように下から覗き込む。


「譲……大丈夫か?」


子どもの純真な曇りのないつぶらな瞳を見て、譲は子どもに心配されてしまっている自分に少しおかしくなり、笑みを見せた。

勇坊の柔らかい頬に手を伸ばす。

「なーに子どもが心配してるのよ」

勇坊のぷにぷにとした頬をもてあそびながら、譲は次に頭を撫でる。

子どもだからと馬鹿にされていると感じた勇坊がムッと拗ねた態度を取る。

「子どもじゃないし!みんな譲がいなくて心配してたんだよ!総司なんか今日の稽古で暴れてたみたいだし、土方さんは周りに当たりがきつかったぞ!」


大変だったんだから!と訴える勇坊をよそに譲は二人の様子を聞いて、二人らしい不安の紛らわせ方だと微笑むんでしまう。

「そう、それは他の人が災難ね」


「そうなんだよ!近藤さんはそわそわしてたし…」


自分が飛び出した後の屯所の様子を事細かく話そうとする勇坊の後ろに控えていた人の気配を感じて譲は顔を上げる。


視線が自分から逸れた事を感じた勇坊も譲の視線を追い、その名前を叫ぶ。


「あ、総司!」


勇坊が総司の裾を引っ張る。


「譲が突然飛び出したからって他の人に当たっちゃだめだろ」

そんな勇坊を総司は笑ってなだめる。


「ごめんごめん、勇坊。ちょっと張り切っちゃってね。譲と話がしたいから、もう戻りな」


素直に言うことを聞いた勇坊が元気に手を振りながら走っていく。その姿を見送ると、まず総司が言葉を切り出した。


「芹沢さんがしたこと、ほとんどの人が知ってるし、君の気持ちも分かる。けど、少し……落ち着いた?」


総司の優しい声色に譲もこくりと頷く。


「分かってるの。会津公と壬生浪士組を繋いでくれた芹沢さんを無闇に罰することなんてできないこと…。でも……」

ぐっと、譲はくちびるを引き締める。

「負けたくない。今は何もできなくも、いつかは」

譲の意思に総司も頷きを返してくれた。

「そうだね。いつか。でも無茶は駄目だから」

「無駄って言ったでしょ。私はこの組のためなら無茶をするんだもの」

またこの言い合いだ、と思った譲は答えのない言い合いを避けるため、早々に総司のもとを立ち去り、近藤さんのもとへ向かった。