幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜


あぐり、佐々木から離れていた譲は、二人に注がれる嫌な視線を感じ、周囲を見渡した。

そして、二人が喋っている川辺を見つめている隠れた人影を見つける。

(あいつは……)

以前、島原で胡弓姫と呼ばれている自分が浪士組隊士であることを京中に言いふらすと脅してきた、佐伯又三朗だった。


そう、忘れてはいけない。あいつは佐々木の恋仲であるあぐりを狙っている。さらに勝手に金策を行なってはならないという局中法度を破り、芹沢さんの悪名を借りておしがりを働いている。


あぐりを舐めるようにじろりと見るその佐伯の眼差しに鳥肌を覚える譲。

譲が執拗に佐々木に対してあぐりを守れというのもこのためである。

佐伯に弱みを握られている自分は下手に行動ができない。


(なぜ……)


譲は暗闇に覆われていく空を仰ぐ。


(女は男に叶わないのだろうか)

どれだけ剣術を極めた自分でも、刀という武器を持たなければ、純粋な力の前には成すすべもない。


その現実に今までどれほど心が苦しめられてきただろう。しかしこの現実は、覆ることはないのだ。


譲は刀の柄に手をかけ、手に痕がつくほど力をこめて握りしめる。


(……でも、負けたくない)

だから芹沢さんの力にも、佐伯の脅しにも抗い続け、そしていつか自分の正義を貫いてみせる。