「譲さん……!」
屯所に戻った譲を見つけるや、同じ監察方の島田が駆け寄ってきた。
「探しましたよ。副長がお呼びです」
その声もどこか遠く、譲自身、返事をしたのか定かではなかった。
ただそのつま先は、芹沢さんたちがいる前川邸に向いていた。
それに気付いた島田が、何かを察して慌てて譲の通る道を塞ぐ。
「譲さん、早まってはだめです。土方副長がお呼びです。どうかそちらに」
「そこに行けば、私は当分前川邸に足を踏み入れることができなくなるわ。ずっと一緒にいたんだもの、あの人の考えなんて手に取るように分かるわ」
突き放すように言葉を放ち、強引に先に進もうとする譲を行かせまいと、島田も折れなかった。
「行ってはいけません……!今のあなたには冷静な判断を下すことができるとは……!」
「当たり前よ!」
譲はついに声を荒げる。
「あなたたち男には理解できないわ!
まるで物のように扱われるなんて……女としてこれほどの屈辱はないわ!これを冷静に見れる者は人間じゃないわ!」
刀を握る手に力がこもる。
「どうしても通さないなら……」
息を吐き、譲は慣れた手つきで刀を抜く。
「例え、局中法度を犯してでも、ここを通るわ」
島田が躊躇して、額に汗がにじむ頃だった。
背後から足の骨が響くような凄まじい怒号が飛んだ。
「なにしてんだてめぇは⁉︎」
そういって土方さんは譲の腕を掴み上げ、刀を叩き落とすと後手に拘束する。
声を聞きつけたのか、それからどたどたと廊下を走る音が響き、近藤さんや山南さんなどのいつもの面々が集まった。
床に落ちている刀を見て、近藤さんの顔が強張る。
「譲………」
皆、譲が何をしようとしたのか、悟ったようであった。

