幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜




感情が昂ったまま、譲の身体は反射的に京の町の街道を出で、人通りの中をかき分けて、早足で歩いていた。



お梅さんが今、どんな思いでいるのか、その気持ちは同じ女ではあるものの、計り知れない。


話を聞いた直後は、確かに芹沢さんに啖呵を切ってやりたい勢いだったが、それよりもお梅さんの行方が心配だった。


自分ならどこかに身投げしたくなるほど、屈辱的な感情を味わうだろう。


ましてや、お梅さんは妾とはいえども夫のある身。道徳的にも、お梅さんが感じている思いは想像を超えているだろう。



最悪の事態は避けたいと、顔を渋くしながら、鴨川の土手を歩いていると、川岸に見たことのある女性の後ろ姿が目に止まり、譲は慌てて小坂を下り、川岸に急いだ。


女性は小刻みに肩を震わせて、手で顔を覆っていた。



草履が草を踏む音に気づいて、その女性が振り返る。



「譲はん……」



その目にはうっすらと涙が光っていた。
それを隠すかのようにお梅さんは小さく微笑みながら袖で目元を隠す。


だが、その笑いはどこか冷たかった。



「えらい突然どすなぁ、譲はん。びっくりしたわぁ」


いつもの柔らかい口調のはずなのに、どこか怯えたような声色が混じっている。


無理をしていることは一目でわかる。



「お梅さん……無理、しないでください」



譲は声に力を込める。



「同じ女だからわかるんです!怖かった……ですよね……。ほんとにごめんなさい」


頭を下げる譲にお梅さんは首を振る。



「譲はんは何も悪くありまへん。悪いのは、男のもとにふらふらと足を踏み入れた自分どす」




「違います!だって、誰もそんな目にあうだなんて、想像なんてしませんし…」



「譲はん」


筋の通った、ぴしゃりとしたお梅さんの言葉に制される。



「すみませんが、しばらく一人になりたいんどす。大丈夫、いくら酷い仕打ちをされたからいうて、死ぬようなことはしまへん」




そう言ってしまうと、お梅さんは一度も譲を振り返ることなく、行ってしまった。



譲はその姿を、痛々しい眼差しでみつめていたのである。