幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜






お梅は前川邸を訪れていた。





しかし、今日はいつもの平間という隊士が対応するのではなく、新見というこの組の副長たる者が現れ、素直に芹沢のいる居間まで通してくれた。






すとん、と襖を閉めると、新見は足早に去っていき、お梅は一人部屋に残される。






目の前では、京の町で悪名高い芹沢がいた。





まだ陽も高いというのに、浴びるように何度も何度も酒を呑み、すでにできあがっているようにも見えた。





お梅は姿勢を正すと、はんなりと愛想よく微笑んだ。





「やっとお会いてきましたな、芹沢様」






芹沢が脇息に肘を掛け、お梅を睨む。




依然として態度は崩すことはない。





「羽織代をはろうてもらわな、菱屋もほんに困っとるんどす」





「無い袖は振れぬ。菱屋にそう伝えておけ」






客人に向けるべきではない高慢な態度と言葉にむっとしながらも、お梅はいたって冷静に対応する。






「ご冗談を。手ぶらでは帰ってくるなと店主からもきつうゆわれとるんどす。ここで帰るわけにはまいりません」





「くどいぞ。ないものはない」





お梅は一度うなだれる。




しかし、覚悟を決めると、芹沢の側に寄り、お銚子を持ち、芹沢が手にしていたお猪口に酒を注いだ。





その酒を呑みほし、芹沢が鼻で笑う。





「芸妓のように振る舞おうと俺の意思は変わらんわ。帰れ」




「それなら、うちにも覚悟があります。どうしても仕立て代をいただかないけまへん」




挑むような瞳で芹沢を睨みつけると、芹沢がむくりと立ち上がり、お梅の前にしゃがみこむ。




「ほう、いかな覚悟か見せてもらおう」




意味深な言葉ののち、芹沢の手がすっとお梅の顎を捕らえた。




お梅はぞっとその場に凍りついて、身体が動かなかった。




逃げなければこのあと何をされるのか、馬鹿でも分かる。





それでもお梅はなぜか身体が縛られたように動かず、迫る男の影に声のない悲鳴を上げた。