受け取った簪を大事に懐にしまい、屯所に戻ると、厨に向かう平助と別れ、譲は土方さんの部屋を訪れていた。
「土方さん?」
声を掛けても応答はない。
仕方なく襖を開けると、やはりそこには誰もいなかった。
取り敢えず文机の上に頼まれていた墨を置いていくと、部屋を退室した。
剣の稽古でもしようかと、道場に向かおうとした際、譲は玄関の庭先である人の姿を見かけた。
小走りで向かい、譲はその後ろ姿に声を掛ける。
「あの……お梅さん?」
「あら、譲はんやないどすか」
「浪士組に何か………」
言いかけて譲は、はあっと手で顔を覆う。
「芹沢さん……ですね?羽織代の取り立てですよね」
お梅さんはこくりと頷く。
「ええ、そうどす。今日こそは羽織代をいただかな困るんどす。お代をもらうまで、戻ってくるなと、店主にいわれたんどす」
譲は厳しい表情を、浮かべた。
「でも……、素直に芹沢さんが渡すとは……」
「へえ、わかっとります。せやけど、譲はんには迷惑かけらへまへん。大丈夫どす、いくらあの悪名高い芹沢さんでも、か弱い女子の命を奪うようなことはなさらんやろ」
そういうとお梅さんは芹沢一派がいる、前川邸のほうへと歩いて行ってしまった。
止めた方が良いのかと考えもしたが、今、あの羽織代を払えるお金がない譲は、願わくば、芹沢さんが羽織代を払ってくれるようにと、道場へ向かった。

