幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜





(まるで雑用じゃない!私は下女じゃないわよ!)





土方の頼み事に絶賛ご立腹中の譲は、つい先ほど買ってきた墨を道端にぶちまけてやろうかとさえ考えたが、煩い雷が耳元で鳴るのはごめんだと、思いとどまる。







(でも、墨なんか他の平隊士に任せればいいじゃない!どうして私なのよ!)





やはり怒りが収まらない譲は、墨を買った際に余ったお金を全て使ってしまおうと、適当に店に入った。






だが、入った店が間違いだったと思い直すも、抜けるに抜け出せかなった。





店の女将と目が合い、女将がずんずんと譲との距離を詰め寄ってくる。





「いらっしゃい旦那はん!いいものを取り揃えておりますえ!」





「は………はあ……」





女将が接客を頑張るのも無理はない。店の棚にはいかにも高価な簪が陳列されており、自分の持ち金ではとても手が出そうになかった。





挙句、自分は女物の小物には全くといっていいほど興味がないため、正直欲しいとも思わず、何がいいかもさっぱりだった。






何か変な期待を寄せている女将の目線を気にしながら、譲は取り敢えず店内を物色することにした。





(とはいっても、正直どれも同じに見えるわ)




同じく店内で簪を眺めている女子(おなご)たちはこれがいい、あれがいいと楽しそうに騒いでいる。





すると、女将がすっとある簪を勧めてきた。





「どうぞ。これなんか、恋仲の女子に似合うのではないどすか」





「えっ?いや、私は……」





女だと言いかけて、譲は口を閉じた。




そう言えば、自分は今男装しているのだということを自覚する。






(これはますます、出れそうにないわ)




やれやれとため息をついている時だった。






「譲……?お前、こんなとこで何してんの?」





その声の主は平助だった。





「平助こそ!ここで何してるの?」




「いや、今日俺が食事当番でさ。塩が切れてたから買いに来てたんだよ。んで、屯所に帰る途中でお前をみっけたの」






店に並べられている簪を見ながら、平助はにやにやする。




「お前……こんなんに興味あったのか?」






「違うわよ!これは……その……成り行きといいますか……」





「成り行き……ねぇ……」




にやにやした表情を崩さず、平助は店内に入り、譲の側まで寄る。




そこで、女将が手にしていた簪に目を留める。





その簪は、桜の硝子細工が、施された美しい簪だった。





男装姿の譲をひと目見て、平助は何か閃いたかのような明るさで女将にいった。





「これ、きっとあいつに似合うぜ。女将これをくれ」





「はいよ」





女将の足が少し浮ついているようにも見えた。





平助が支払いを済ませると、譲と平助は女将の熱い見送りを受けながら、一緒に店の外に出た。