「今日はえらいお疲れどしたなあ」
ようやく斬り合いのあった座敷の後片付けを終えた譲は、千早姐さんに誘われて、花緒とともに千早姐さんの部屋でお茶をしていた。
わざわざ千早姐さんが淹れてくれたお茶を飲みながら、譲はそんなことないですと疲れた素振を見せずにふるまった。
「いえ……迷惑はかけられませんから。島原にも、浪士組にも」
ずずっとお茶をすすると、花緒が首を突っ込む。
「浪士組は、姐さんにとって大事な場所なんですね」
湯飲みを置き、譲はそうね……、と呟く。
「とても大切な場所。私にとってかけがえのない場所なの……。絶対に失いたくない。命を懸けて、あの人たちを護りたいの。どんな時も傍にいて、私に光をくれた大事な人―――」
左之さんや新八さん、斎藤くんに平助……。源さんに山南さん、土方さんや近藤さん、そして、総司。
みんな大切な私の人生―――――――。
目を半ば閉じ、頬を赤らめ、慈しみをもった娘のその瞳を見て、千早はふっと笑う。
「その表情は、まるで誰かに、恋してるみたいどすな」
千早がからかって笑う中、譲は全力で首を振る。
「そ………!そんなことないです!私が……そんな……恋だなんて……」
譲は顔を伏せる。どうしてだろう。なぜか強く反抗できなかった。
「私は……幸せになっちゃいけないんです」
悲痛な表情の譲に、千早はため息を吐く。
「幸せになってはいかん女子などおりやしまへん。譲はんは、幸せをどうしてそこまで拒むんどすか」
譲は、その問いに答えることができなかった。