外の廊下が騒がしかった。
番頭の叫ぶ声が聞こえる。
「お客はんこまります!」
さすがの騒ぎに家里も杯を置く。
その目は完全に酔ってはいなかった。
「何事だ!」
そう叫ぶや否や、座敷の襖が強引に開けられる。
そこにいた人物に譲は目頭を押さえた。
「さきほどの話!聞かせてもらった!
士道不覚悟により、捕縛する!」
「んだてめぇ!」
山崎と家里が睨み合い、一触触発の雰囲気に、譲は花緒を下がらせる。
家里は譲を突き放すと刀を抜いた。
山崎の視線が、譲に向けられる。
「そこの女、その男を庇うようならお前も容赦しない!」
言うことは一丁前だと譲は思いながらも、ここはなんとか演技を貫き通そうとする。
怯えているかのように肩を竦め、譲は部屋の隅まで下がる。
そしてすぐ、二人の刀が交わった。
しかし、まだ入隊して間もない山崎が、試衛館より剣術を磨いている家里に押され始めた。
無理もない。家里は今の浪士組の中では自分たちには劣るも、そこそこの腕前だ。山崎に勝算の余地はない。
苦悶の表情を滲ませる山崎にため息を吐き、譲は着物のなかでも重い打掛けを脱ぐと、常に懐に忍ばせている短剣の鞘を抜いた。
「山崎君!」
山崎の注意と家里の注意が削がれた一瞬の隙をついて、譲は短剣を投げた。

