幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜



「姐はんって案外考えずに行動しはる方なんどすな」




仕事場のため、廓言葉に戻る花緒。




髪を結い上げた譲はこつんとその額を指で小突いた。




花緒が大げさに額を押さえる。




「ほ……本当のことを言っただけどす」




「悪かったわね、考えなしの女で」





全文棒読みの勢いで言葉を返すと、花緒は譲の逢状を取りに行ったのか、部屋を出てしまった。




譲は買ったばかりの白粉を丁寧に塗っていく。





この角屋大夫の千早姐さんが直々に選んでくれた白粉だった。





満遍なく白粉をぬり、紅をひくと、よしと、意気込み、譲は花緒が最初に届けてくれたお逢状に目を通す。





しかし、そこに家里の名前はなかった。






(名前を変えている可能性もあるわね)





勘繰りをしながらじっくり考え込んでいると、顔が慌てた様子で部屋に飛び込んできた。





「ね……姐はん!おこしにならはりました!家里殿から逢状が届きました!」





それを聞いた譲は勢いよく立ち上がると、顔色を変えて気を引き締めた。