幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜




「家里が……馴染みの客⁉︎」



往来のど真ん中で大声で問い返したことにハッとして、譲は思わず自分の口を押さえた。




どうやら誰も不審には思ってないようだ。






「あ!……私、他の姐さんに聞いたことがあります!なんでも芹沢さんの名をかりておしがりをしていたとか。だから、うちでも相当金回りがよかったみたいです」





譲はため息をつく。



芹沢さんは出身は水戸の武士という高貴な家系だが、いかんせん勝手すぎる行動が多い。




とくに無理なおしがり、花街などでの乱暴沙汰は後を絶えない。




近藤さんたちが会津藩にも汚名を着せることになると諌めても、
『悪名は無名に勝る』
と言ってろくに耳も貸さない。





最近ではそばにいる新見さんの行動が目立ち、局長職をおろしたばかりだ。





あの人がいる限り、隊の風紀はまとまらないであろう。





譲は少し考えたのち、言った。





「店にくるかしら?」




千早が首を傾げる。


「どうでっしゃろな。数日前までは毎日来てはったんどすが」





家里を捕らえたのは数日前。つまり、彼は捕まるまでは毎日訪れていたということだ。





となれば、譲のやることは一つ。




「最近、白粉がなくなっていたところなの。千早姐さん、花緒、行きましょう!」





と二人を引き連れて、店へ向かった。