(馬鹿じゃないの⁉︎入隊して早々に自ら切腹申し出るやつがあるか!)
譲は抑えきれない怒りを腹に、京の都を爆走していた。
道行く者があまりの譲の気迫に道を譲っていく。
町の者の気遣いにいつもなら気付いて頭を下げる譲も今ばかりはそんな暇はない。
(馬鹿山崎!家里をなめすぎよ!もし何かあってみなさい!稽古でしごきまくるんだから!)
どうやってこのツケを払わせようかと考えていると、幼い声に呼び止められた。
「柚葉お姐はん!」
譲は足を止めると声の主を探す。
「花緒!」
声を上げると花緒はとことこと譲の傍に駆け寄ってきた。
「やっぱり姐さんでしたね。そんな怖い顔してどうしたんですか?」
花街の外だから花緒は気兼ねなく廓言葉を使わずに済むのであろう。
花街にいるよりも表情が豊かだった。
「いや……少し隊務があって。一人で来ているの?」
「いいえ、千早姐さんと一緒です。あの……柚葉姐さん、何かお手伝いできることはありませんか?」
さすがに花緒を巻き込むわけにはいかず、譲は躊躇うことなく首を横に振ろうとしたが、その前に花緒が譲の裾を掴む。
「お願いです!うち、お姐さんの力になりたいんです!」
あまりの熱意に譲は分かったわと折れると、少し尋ねてみた。
「あなた、家里って人知ってる?」
「それなら、店の馴染みの客どす」
花緒が発した言葉ではなかった。
視線を向けると、花街、角屋の大夫である千早がゆったりとこちらに歩み寄っていた。

