屯所に帰ってくると、譲はお焼きが冷めぬうちに総司と一緒に食べようと、高鳴る胸を押さえながら、小走りで総司の部屋に急いだ。
部屋の前まできてしかし譲は首を捻った。
部屋に人の気配を感じないのだ。
「総司?」
一応声を掛けて障子を引くと、やはりそこに総司の姿はなかった。
斎藤君と稽古でもしているのだろうかと、少し残念そうに顔を伏せていると、庭を走る子供の姿があった。
その子供は新撰組が借りている家の子供ー八木さんの子供、勇之助だった。
「勇坊!」
声をかけると、勇坊は人差し指指を口に当ててしーっと譲に合図した。
おそらく、近所の子供とかくれんぼでもしているのだろう。
しかし、浪士組の邪魔になるため、庭で遊ぶのは許されていないはずだ。
推測するにお忍びのかくれんぼなのだろう。
困った子供だとため息をつきながら、譲はつっかけを履いて庭に出る。
「勇坊!庭で遊んじゃだめって言われているでしょう?近くに壬生寺があるからそこにいきなさい」
「僕の家なのに、なんでどかないといけないの?ね、譲も一緒に遊ぼうよ!」
誘ってくる勇坊を制する譲。
「私は忙しいの。また今度遊びましょ」
そう言って去ろうとすると、勇坊があっ!と叫んだ。
「総司だ!」
びくっとして思わず振り返るが、誰もそこにはいなかった。
譲の大げさな反応に勇坊が腹を抱えて笑う。
「総司のことになったら譲はすぐに反応するんだから!面白いや!そんなに総司のことが好きなの?」
「か……からかったわね!」
一気に顔が赤面になり、譲は怒りと恥ずかしさで一杯になる。
そしてにやりと不敵に笑うと声をあげる。
「勇坊はここにいるわよー!」
すると勇坊が驚いた顔になる。
「なんてこと言うんだよ!」
「私をからかったばつよ」
べーと舌を出していると、ぱたぱたと子供の足音がこちらに向かってきた。
勇坊は勇坊にべーと舌を出したあと、慌てて逃げていった。
その子供らしい生意気な姿に、譲はふっと心を和ませた。

