しばらくあぐりとの会話を楽しんでいると、人々がざわつき始めた。
何が起こったのかと、その原因を探ると、暖簾の向こうに見える街道を歩いている群衆があった。彼らは全員浅葱色の羽織を着ており、物々しい雰囲気が立ち込めている。
その様子に譲は素早く勘づいた。
(浪士組……!!)
恐らく京の町を巡察している隊務の真っただ中なのだろう。
みなが口々に怖い顔で「壬生浪」と言い、次々に浪士組を卑下する言葉が飛び交う。
譲はそれを聞いていて、いい気分にはならなかったものの、今は何も言わず、じっとしておいた。下手に騒いで浪士組に見つかるのはごめんだ。今は、気分転換をしてゆっくりと考えたいのだから。
隊の最後尾にいた人物を見て、譲は自分の気配を消すようにした。
(今日は十番組か)
左之さんが組長を務める十番組。
そういえばと思いあぐりを見てみると、思った通り、あぐりは頬をほんのりと赤くしていた。
理由は言わずとも分かる。
「大切な人は見つけられたかしら?」
冷やかしてみると、あぐりはますます顔を赤くしながらも、こくこくと幸せそうに頷いた。
そんな顔を見ていると、こちらの気持ちまでほっこりとした気分になり、譲はそっか、と微笑んだ。
するとあぐりが興味津々な目で譲を見つめた。
「ゆ……譲はんには、誰かいい人はおりまへんのえ?」
突然の問いかけに、譲はまたしても咽る。
「い……いないわよ!」
「ほんまどすか?」
疑うような声の調子。
しかし譲は断固否定する。
「何度も言わせないで。いないものはいないの」
「そうどすか。それはえらい残念どす」
「私のことより、あぐりはどうなのよ。どうして佐々木なの?」
尋ねてみると、あぐりは照れた。
「そ…そんなん……優しいからに決まってるどす。誰が何といおうと、うちにはあの人しかおりまへん」
「そっか」
真っ赤になっているあぐりに、譲は優しく目を細めた。

