幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜






お梅さんの言葉通りに、譲は男装の身なりではあるものの、京の町に繰り出していた。




江戸とはまた少し違った賑わいに、譲の心が躍る。数多くある出店の中で一際目を惹いたのが甘味屋だった。




譲はお金を持っていることを確認すると、足早に甘味屋の暖簾をくぐった。





しかし、意気揚々と入ったものの、店は客でにぎわっており、席が空いていなかった。





これは仕方あるまいと諦めて帰ろうとすると、高い声が譲の耳に飛んだ。






「あの時の……譲はんやないどすか?」





声の方向を探ってみると、以前屯所で会った平隊士、佐々木愛次郎の恋人、あぐりという娘がこちらに大きく手を振っていた。






どう反応すればいいか分からず、とにかく手だけ振り返していると、手招きをされ、正面の席に座るように合図された。




とにかく行って、指示通りの席に座ると、店の人が注文を取りに来た。





品書きに軽く目を通し、譲は適当に団子とお茶を頼む。





店の者が去ると、団子を口に頬張りながら、あぐりが話かけてきた。






「まさか、こんなところで譲はんにお会いすると思いまへんどした」





「ええ、私もあぐりさんに会えると思いませんでした」





すると、譲のその言葉にあぐりが眉を顰める。






「譲はん、そない仰々しい言い方せんでもよろしおす。うちのことは、あぐりと呼んでください」







譲は苦笑いしながらも、かろうじで頷くと、店の者がお茶を置いていった。







その反応を見て満足げになるあぐりだったが、譲の顔をみて表情を変える。






「譲はん……その赤く腫れた頬、どうしたんどすか?」






ああ、と声を上げて、譲は頬に触れる。






「大丈夫。少し、揉めてね」






「女子(おなご)やさかい、狙われてるんどすか?」





真面目な顔で、馬鹿正直なことを聞いてくるあぐりに譲は先ほど届いたお茶を吹きそうになり、譲はけほけほと咽る。






「違う違う……!そういうことじゃないから大丈夫!」






「そうどすか?せやけど、なんかあったらいつでも相談に乗るさかい、いつでも呼んでおくれやす」






「ありがとう。あぐり」






譲はお礼を言うと、温かいお茶をすすった。