譲は不思議そうにお梅さんを見つめる。お梅さんは力強く頷く。
「ええ。きっとあるはずだわ。あなたが今……どのような状況に置かれているのか、詳しくは分からないけれど、しっかりと気をもって」
譲は少し逡巡した後、具体的な名前を上げることは避けて、抽象的ではあるものの、何があったのかを大まかにお梅さんに話した。
全て話し終わったあと、お梅さんはなぜか笑っていた。
「それは……。ずいぶんと素直ではない人たちね」
譲が言っている意味が分からずぽかんとしていると、お梅さんは笑いの波が引き終わってから、譲が押えている手拭いを代わって手に取ると、ぽんぽんと譲の頬を拭いた。
「きっとその人たちは、あなたが思っている以上に、あなたのことが大切なのよ。だから、あなたに無理をさせたくないんだわ。あなたに汚い役目を押し付けたくないのよ」
「でも………!!」
反論しようとするとお梅さんが言葉を重ねる。
「譲さんが頑張れば頑張るほど、その人たちも心苦しくなるのよ。それを理解してあげなくては、この頬の痛みも無駄になるわ」
譲が分からないという様子で考え込んでしまうと、お梅さんはふっと笑う。
「そうね。今は、そうして考える時間が必要ね。気分転換に、京の都を巡るのもいいわね」
ふふっとはにかんだ後、お梅さんは立ち上がると優美な身のこなしとも思える仕草で、壬生寺を去っていこうとした。譲が慌てて立ち上がって叫ぶ。
「あの……!羽織代は必ず払います……! ありがとうございました……!」
頭を下げると、お梅さんは一瞬振り返って微笑んだ。

