異様な空気が漂う室内。
胡弓を弾き終わってしまうと、譲は冷や汗を流した。
どうしよう。言葉がみつからない。
「その胡弓……うちの浪士組の女隊士がもってたやつと同じような気がするんだよなあ」
もしかして、いつの間にか部屋を探られていたのだろうか。胡弓はいつも誰の目にも触れないように大事にしまっているというのに。
「き……気のせいやありまへんか」
ぎこちない笑みで譲は返す。
「なあ、お前、ここで男装してみよ」
譲はぎゅっと手を握りしめた。完全に、疑われている。
ということは、最初から佐伯は酔ったふりをしていたということだ。
「そ……それはできまへん」
「客の言うことがきけんのか。ならば」
逃げなければ!
本能的に身体が叫び、立ち上がろうとするがその際に重い着物に素早い動きがとれず、簡単に席を立ちあがった佐伯に追いつかれる。
ならばと、懐に手を伸ばして目をみひらく。
そうだ。よりによってこんな肝心なときに短剣を置いてきてしまった。
そうこうしているうちに、譲は腕をとられ、壁に押し付けられた。
その衝撃でシャン……と簪の鈴が畳に一つ落ちる。
「まあ、最初は驚いたがな。本当にお前があの龍神譲なのかどうかとな」
息がかかるほど顔を寄せられる。
押し返そうとしても、いくら譲でも純粋な力では男の佐伯に叶わなかった。
「だが、お前がいないうちに、お前の部屋を調べさせてもらった。そこで胡弓を見つけ、島原で噂になっている胡弓姫とお前を結びつけたというわけさ」
譲が依然、抵抗をやめず、佐伯に目を剥く。
「何が目的………!?」
「そうだなあ。おしがりをしていたことは本当だ。だが、そのことをべらべらと他のやつらに言われると面倒なんだ」
「なるほどね……私に口止めをさせたいわけ」
「それだけじゃない」
佐伯はの陰気な笑みが暗がりに浮かぶ。
「俺は……、あのあぐりっていう女が気に入ってんだ。可愛らしい女じゃねえか」
譲はぞっとする。
「まさか……」
「俺がおしがりをしていたことと、これからすることは、誰にも言うんじゃねえ。言えば、お前のことを浪士組に……いや、お前が浪士組隊士だということを京中に言いふらす」
譲が悔しそうに歯を食いしばっているのを嘲笑う佐伯。
そして、まじまじと譲を見る。
確かにあぐりはいい女だ。だが、こいつも、相当な玉の女だ。それに、聞くところによるとまだ男を知らないらしい、純粋無垢な生娘。てっきり試衛館のやつらに手をつけられていると思っていたが、あいつらはこいつを大事にしてきたらしい。
佐伯は細く白い、憂いを帯びた譲に欲情を煽られる。
そして、反射的にその細い体を畳に押し倒した。
譲は驚いてその場をどこうとするが、強い力で押さえつけられ、身動きがとれなかった。
「ふん、いい眺めだな。いかに凄腕の剣豪でも、しょせんは女ってわけか」
こんな屈辱的なことはないと、譲は足をばたばたとさせるが、それも佐伯に押さえつけられる。
やつの手が帯に伸びてきて、譲はギュッと目を閉じた。

