幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜










「うう……終わったと思ったのに……なんでよぉ……」







弱弱しく文句を呟きながらも、譲は傍らの胡弓を手に取る。






花緒は何とか譲の気を取り直そうと話を振ってきた。








「ゆ……柚葉姐さんには、それだけ帰りたい場所があるんですね。羨ましいです」








その幼い瞳に少し切なげな色を見た譲は、花緒の頭をそっとなでる。







「そうね。まあ、楽しいことばかりじゃないけどね。現に私がこうして島原(ここ)で働いているわけだし」










「でも、きっといい場所なんだと思います。今度、私も窺ってもいいですか?」









純粋な瞳でとんでもないことをさらっと尋ねてきて、譲は掌を返して、花緒の頭を小突く。







「だめよ。浪士組は女人禁制なの。それこそ、花緒なんてかわいいから、狙われるわよ」








「ではどうして、浪士組で姐さんはやっていけるのですか」









「もう……この話はまたおいおいね。心配しないで。私は幸せだから。そして、あなたの突き出しのときは私に手伝わせてね。ふふ」







話を掘り返されないようにそそくさと部屋を出る譲。








「それは嬉しいですけど……待ってください!護身用の短剣を持っていかなくてもいいんですか!?」







譲はもしも性質の悪い酔っぱらいに襲われたときのために、常に短剣を懐に忍ばせていた。








だが、相手はもうこれで最後。そこまで警戒する必要もないだろうと考えた譲はただ首だけを横に振って、座敷に向かった。