幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜








「今日もお疲れ様でした。柚葉姐さん」






「ありがとう、花緒」



逢状を送ってきた全ての客に会いに行き、部屋に戻った譲にねぎらいの言葉と、温かいお茶をそっと差し出してくれる気の利く花緒に、譲は笑顔でそれを受け取った。




本当の花緒は優しくて、気立てのいい娘だ。あの男所帯とは天と地の差だ。まあ、決して悪口を言っているわけではないのだが。





ふうふう、と息を吹きかけて冷ましてから、ゆっくりとお茶を飲んでいると、何の合図もなく、部屋の襖が開いた。





何事かと二人で視線を向けると、そこには吉原の実風姐さんを彷彿とさせるような気品漂い、妖艶な笑みを浮かべる女性がいた。






二人は慌ててその場に居直る。





この女性は島原でも有名な芸妓の最高位、太夫の地位にいる千早(ちはや)姐さんだった。







千早姐さんは実風姐さんのような懐の深い人で、島原中の姐さんであり、譲も何度かお世話になったことがあった。





しかし、今日は大事な座敷を任されていたはず。もう終わったのだろうか。





恐る恐る顔を上げてみると、はんなりと微笑みながら、千早姐さんは隣りに腰を据えた。






そして、袂から紅を取り出すと、それを小指の指先につけて、お茶を飲む際に紅がとれてしまった譲の口元へやった。








「まだ仕事は終わっとらへんのに、いけまへんえ。もう少し、顔を上げて」







千早の言葉に、譲と花緒は顔を見合わせる。








疑問を抱えた譲は千早姐さんが紅をさし終わるのと同時に口を開いた。







「あの……今日はもう終わったはずですが……」








「そやけど、ほら」







千早姐さんは懐から一枚の逢状を譲に手渡した。そこには達筆な字で、親愛なる胡弓姫へと確かに書かれてた。






愕然と肩を落とす譲とそれを見てにっこりと面白がるように笑うと、千早姐さんは去り際に
「はよお済まして、楽をしい」と言い残して去ってしまった。