幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜














総司は自分の隊服をしまい、少し昼寝をしたあとに、目覚めの悪い顔を洗おうと井戸に向かっていた。










その途中、譲を見かける。












「ゆず……」









声を掛けようとして、総司は思いとどまった。










譲の視線の先にあるものを見る。








(あれは………)












確か、十番隊に所属してる佐々木という隊士だったような……。










一度手合わせをしただけなので、記憶がどうも曖昧だった。








その佐々木は、可愛らしい町娘と仲良く話をしている。










そんな二人の様子を遠くから物陰に隠れて見つめている譲のどこか切なげな表情。











なぜか、気が憚られた。







それに…、あの譲の今にも消えてしまいそうな儚そうな目。







(どうして……)








譲はあんな目をしているのだろう。







譲は、何に対して、あのような顔を浮かべているのだろう。








彼女が男に簡単に心を動かされるような女ではないことを知っていた総司は、彼女が嫉妬心で二人を見つめているわけではないことは悟っていた。







ではなぜ?










総司はぐっと拳を握り締める。










ただ一番不甲斐なかったのは、そんな譲に声の一つもかけられない自分だった。












結局、総司はそのまま何もすることができずに、何かを振り払うように井戸に向かった。